Kamiguchi et al. (2011GER)

  • Kamiguchi, K., O. Arakawa, and A. Kitoh, 2011: Long-term changes in Japanese extreme precipitation analyzed with APHRO_JP_EX. Global Environmental Research, 15(2), 91-100.
    • Journal page
    • キーワード:climate model, extreme precipitation, global warming, IPCC, water resources
Abstract

日本の長期的な極端降雨指標に関するデータセットAPHRO_JP_EXを作成した.APHRO_JP_EXには,日降水量から算出された年間の極端降雨指標が40以上含まれている.対象領域は日本の陸域のみに限られるが,長期的(1900年-2009年)かつ高解像度(0.05°× 0.05°)の一貫したデータセットであるので,気候研究だけではなく,水災害のリスク評価といった応用研究にも活用できる.加えて,温暖化が日本の極端降雨に及ぼす影響を評価するため,極端降雨指標のトレンドと経年変動をAPHRO_JP_EXを用いて調べた.

日本全域で有降水日の数が著しく減少していた.これは,特に東北地方で顕著であり,20世紀で年間約20の有降水日が失われていた.年平均日降水量については大半の領域で弱い減少傾向が見られた.日本全域を平均してみると,強降雨強度の増加が鮮明であった.強降雨の空間的な変化は西部で大きかったが,強い経年変動の影響により,多くの領域で明瞭ではなかった.また,20世紀を前半と後半に分けた比較を行い,後半の方が強降雨指標の経年変動が顕著であることが分かった.さらに,有降雨期間と無降雨期間に関する指標が地域性を明確に示しているトレンドでは,湿潤な期間の指標が日本海側で減少し,乾燥した期間の指標が太平洋側で増加することが分かった.この2つの結果は乾燥が進むことを示している.

20世紀が始まってから,地上気温が上昇するのと同時に,全体として日本の降水はより極端になってきている.しかし,そのシグナルの中にも地域性が存在している.

Memo
  • 気温が1度上昇すれば,全大気中の水分量が7%増加することが理論・モデル・観測から分かっている.しかし,降水量の変動はもっと穏やかで,1から3%の増加に留まる.これは温暖化に伴って大気循環が弱化することが要因とされている(Held and Soden, 2006).
  • 極端降雨と気温との間には密接な関係があり,例えば,高温期では豪雨イベントが増加する(Allan and Soden, 2008).
  • 日本の極端降雨に関する研究についてはレポート参照.
  • 極端降雨指標にはSTARDEX*1とほぼ同じ指標を使用し,Schmidli and Frei(2005)に従って4つに分類した.
  • CSTN_EXは80km間隔の雨量計データを,JP_EXは17km間隔のデータを用いている.
  • 地上気温は1970年代を除いて一貫して上昇している.年平均日降水量(PAV)は1923/24,1953,1984年に急激な変化がみられるが,一貫したトレンドは見られない.これはXu et al.(2003)と整合的.このような急激なPAVの変化はレジームシフトと呼ばれており(Minobe, 1997),太平洋十年変動との関係性が指摘されている(Mantua et al., 1997).
  • PAVの1984年における急激な変化についてはInoue and Matsumoto(2007)を参照.
  • PAVは地上気温と有意な相関はなく,その変動は温暖化よりも自然変動によるものが大きいと考えられる.
  • 有降水日(R1)はPAVに比べて減少トレンドが明瞭である.特に60年代以降で急激に減少している.
  • 強降雨に関する指標は増加のトレンドが見られ,地上気温との相関も高い.これは,増加トレンドに関して,自然変動よりも地球温暖化の影響が大きいことが示唆される.
  • box-whisker plot(箱ひげ図)は研究に使えそう.
  • 全体を通じて,Fujibe et al.(2006)と整合的である.

*1:STAtistical and Regional dynamical Downscaling of EXtremes for European regions

Kamiguchi et al. (2010HRL)

  • Kamiguchi, K., O. Arakawa, A. Kitoh, A. Yatagai, A. Hamada, and N. Yasutomi, 2010: Development of APHRO_JP, the first Japanese high-resolution daily precipitation product for more than 100 years. Hydrol. Res. Lett., 4, 60-64.
    • Journal page
    • キーワード:precipitation, observation, model evaluation, global warming, extreme analysis
Abstract

APHRODITE*1プロジェクトの一環として,日本の陸域における日降水量の長期的(1900年-)で高解像度(0.05°× 0.05°)なデータセットであるAPHRO_JPを作成した.APHRO_JPは雨量計の観測値から作成されており,平均場と極端現象の双方を正確に再現することを目的としている.APHRODITEプロジェクトで開発された新たな内挿法によって,観測網が貧弱であった20世紀初期でさえ,地形性降雨の再現性向上と,長期的なバイアスの減少が確認できた.さらに,APHRO_JPを使えば,約150mm/dayまでならば,強降雨に関する統計解析が100年を超える長期間にわたって可能であることが分かった.

APHRO_JPは,メソモデルの検証や日本における極端降雨トレンドの長期的な解析のような,多様な研究領域で用いることが可能である.

*1:Asian Precipitation - Highly Resolved Observational Data Integration Towards Evaluation of the Water Resources

今田ら (2012水工)

  • 今田由紀子,木本昌秀,鼎信次郎, 2012: 特異値分解解析を用いた統計的ダウンスケーリングによる季節予測―インドシナ半島の秋季の降水の予測可能性―. 土木学会論文集B1(水工学), 68, 1369-1374.
    • Journal page
    • キーワード:季節予報,ENSO,統計的ダウンスケーリング,SVD解析
Abstract

冬季アジアモンスーンのインドシナ半島における地域降水場の潜在的な予測可能性を,GCMよる季節予報の統計的なダウンスケーリング結果を使って調べた.地域降水場と熱帯太平洋のSSTに対するSVD解析によって,2つの異なる時空間構造が見出された.1つは,熱帯東太平洋に変動のピークを持つ一般的なエル・ニーニョと関係した,中央および南ベトナムが極端に乾燥する状態である.もう1つは,熱帯中央太平洋に変動のピークを持つ新型エル・ニーニョと関係した,北ベトナムが極端に乾燥する状態である.また,ハインドキャスト実験では,新型エル・ニーニョと関連したモードの予測は難しいが,従来のエル・ニーニョと関連したモードの予測可能スキルは相対的に高いという結果を得た.以上の結果は,地域気候予測を目的とした統計的ダウンスケーリングに対しては,個々の物理的な視点に根差した検証が重要であることを示唆している.

プロメテウスの罠(朝日新聞特別報道部 著)

だいぶ更新が滞ってしまった。
今回は、最近読んだ本の感想を書いてみる。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%83%86%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%81%AE%E7%BD%A0-%E6%98%8E%E3%81%8B%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E5%8E%9F%E7%99%BA%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%AE%E7%9C%9F%E5%AE%9F-%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%B0%E8%81%9E%E7%89%B9%E5%88%A5%E5%A0%B1%E9%81%93%E9%83%A8/dp/4054052347

この本は朝日新聞のコラム「プロメテウスの罠」を書籍化したものである。前々からWEB上で話題になっていたので(特に気象研のくだりが気になっていた)、購入してみた。

特に関心のあった気象研究所に関する記述(第三章)では、

  • 54年続いてきた放射能観測に関する予算の執行停止
  • 論文(原発事故の海洋への影響に関する研究)の投稿中止要請

の2点が問題として取り上げられていた。気象庁側の言い分としては*1

  • モニタリングの予算が不足しているので、気象庁放射能観測の研究予算を回してほしいと文科省から要請があった
  • 論文は記述に問題があって、その修正に字数の制限等から応じられなかったため、当該研究者が自主的に共著者を降りた

とのことである。

話は本から逸れるが、長官の記者会見について。防災情報に関してはシングルボイスが重要というのも確かに1つの考え方かもしれないが、個人的には持っている情報はできるだけ出して欲しい。情報に対して取捨選択して判断するのは国民で、政府機関ではない。きちんとその情報が持つ意味を、専門用語を抜きにして示せば理解されるはず。もっと国民を信頼して欲しいものだ。

第五章は震災発生から5日間のドキュメント。官邸、保安院、東電の間で十分な意思疎通がとれず、混乱した状況が詳細に記述されている。読んでいて気になったのは、官邸に居る人間の中で専門性を持った人間が少なかった点。これでは、技術的な問題に対応するのは難しいだろう。特に、保安院の幹部で原子力を専門とする人間が居ないのは驚きだった。

今季の鹿島について

素敵な記事があったのでメモ。
今シーズンの鹿島アントラーズ研究 - pal-9999の日記
あいかわらずこの方の説明は面白いなあ。

まずオフェンスについて。

  • オリヴェイラ最終年からのオフェンスの停滞は、ハイプレスによるショートカウンターができなくなってきたから
  • これは、選手の加齢によって以前のような運動量が失われたことが要因
  • 今いる選手では、このようなサッカーをするのは難しく、ポゼッション主体で点を取っていくしかない

次に、ディフェンス面について気になった点を引用。

  • 鹿島の4-4-2の問題点

セレッソ得意の中央突破からの得点なんですけど、このシーンの紹介をしたのは、鹿島の守備の話にもなるからです。というより、このシーン見たとき、鹿島さん、「セレッソのスカウティング、ちゃんとした?」と思ったからで。

(中略)
まぁ、こんなシーンにつながるんですけど、前半通じて思っていた事ですけど、鹿島の守備に、あまりに連動性がない・・・・このシーンだと、中央に突っ立ってるSHは、バイタルのスペース埋めないといけないのボケーと突っ立ってるんで、バイタルがスカスカだし、CBとボランチのマークの受け渡しも上手く行われてません。だから、このシーンでも、決定的なシュートを打たれてます。実は、これも、オリヴェイラ政権末期から続く鹿島の問題点です。前でのプレスが上手く機能しない為、FWとMFのスペースを使われがちで、相手のボランチのビルドアップを防ぐことが出来ず、そこからサイドに展開されて、ボランチをサイドに釣り出され、空いたバイタルを使われて失点という形です。

  • 鹿島の4-3-1-2(中盤ダイヤ)の問題点

鹿島のほうも、相手のSBを誰がみるのかって所が問題になります。ここは、ガンバ戦でも問題になってました。相手のSBが浮いちゃうんですね。

(中略)
ただ、ここでは、4312の弱点がモロにでてます。つまり、相手のSBにプレスがかかりにくいって問題です。このシーンでは、完全に清水の左SBである李が浮いてしまってます。鹿島の左CHである遠藤康が中央に引き寄せられちゃってるから、しょうがないんですけどね。で、そこから、逆サイドへの鬼の精度のサイドチェンジを入れられてしまい、そこから崩されて失点と。

第37回メソ気象研究会に参加

26日からの気象学会のため上京していたが,前日に研究会があると知り聴講してきた.
研究会は気象庁講堂で行われたので,事前に気象科学館と津村書店に立ち寄ってみた.

科学館で印象的だったのは,波浪と津波の違いを説明するための水路模型.
これは,札幌管区気象台の見学会(イベント名は忘れた)でも見たものと同じ.
管区気象台のときは手動で波を起こしてたけど(水路も自作?),今回は立派な模型だった.
比較的新しかったので震災後に作られたのだろうか?
その他,天気予報を紹介するビデオもなかなか面白かった.
時間があればもっと見てみたい.(というか,WEB上に公開して欲しい)

津村書店では,
「数値予報課報告・別冊 54号 気象庁非静力学モデルⅡ ―現業利用の開始とその後の発展―」
を購入.NHMのformulationを勉強するのにちょうどいいかも.

研究会の雑感

議題は「再生エネルギーとメソ気象との関わり」.
以下,HPよりテーマ設定の理由を引用.

 昨年の第35回メソ気象研究会「メソ気象研究の将来展望・構想」では,メソ気象研究の今後の発展のためには多分野との連携について強化すべきだという議論がなされました.今回のメソ研究会では,その議論を受け,昨年の大震災以降に脚光を浴びている再生エネルギーの活用に対してメソ気象学がなせる役割について考えることにしました.
 太陽光や風力発電などの再生エネルギーを効率よく活用するためには,事前に日射量や地表風をできるだけ正確に予測することが必要であり,その予測技術を向上させるためにはメソ気象学の知見が求められています.ユーザー側からの要求もふまえ,現状の問題点および解決すべき課題について話題を提供していただき,今後の連携についても議論したいと考えています.幅広い方面からの多くの方々のご参加と活発な議論をお願いします.

気象学の応用分野としての再生可能エネルギー供給量予測には以前から興味を持っていたので,面白い企画だと感じた.
要点や簡単な感想を列記してみる.

  • PV,PV連呼しているからいったいなんだ?と思ったが,太陽光発電(PhotoVoltaic)のことらしい.
  • 電力事業者としては,発電設備一か所の発電量変量よりも,管轄領域全体の変動(平均値)が知りたい
  • 当分は火力依存となるのは避けられない.
  • JMA-NHMの放射スキームは,全球モデルとほぼ同じ.
    • これは意外だった.空間スケールが全く違うのに大丈夫か?
  • スキームは晴天時と曇り時で分けて開発.
    • 雲の再現がやっぱりネックとなっているようだ.雲微物理は重要だと思うが,どこまでモデルに組み込めるのだろうか?
  • 放射スキームは他のスキームと比較して精度が高い(特に晴天時)が,計算量が多いという特徴を持つ.
  • そのため間引きが必須.
  • 放射スキームの向上⇒「放射フラックス+加熱率」の向上
    • 加熱率ってなんだっけ?あとで調べておこう.
  • 工学モデル=ガイダンス(MOS)=統計的モデル
  • 太陽電池のデバイスは高温に弱い
  • 下層の層状雲の再現が日射量予測が外れる一因となっている.
  • 風力発電量の予測では,位相ズレは致命的(そもそも総観場が合ってないと話にならない).
  • 対策としては,「位相誤差補正法」といった手法が考えられている.
  • RANS(鉛直1次元モデル)とLESの中間の領域は未知の領域(terra incognita)と呼ばれている(Wyngaard, 2004JAS).
  • NHMの解像度を細かくしていくと(50m程度),LES的な対流セルが見える.ダブルカウント問題は生じない.
  • LESによる結果を正解として(データベース化),高解像度RANSの検証を行うという方向性.
  • Top-hatフィルター?
  • 予報が外れた事例を外部に積極的に公開するべきでは?
  • 信頼性区間の情報が欲しい.そのためにはMSMのアンサンブルが必要.

Sung et al. (2009IJCL)

  • Sung, M.K., G.H. Lim, W.T. Kwon, K.O. Boo, and J.S. Kug, 2008: Short-term variation of Eurasian pattern and its relation to winter weather over East Asia. Int. J. Climatol., 29, 771-775.
Abstract

 冬季東アジアにおける地上気温は,EUパターンと負の相関がある.先行研究では,この相関を月平均スケールで見出していたが,本研究では日スケールに焦点を当てる.この目的を達成するために,新しいEUインデックス(EUw)を定義し,EUwの正負について,ラグ合成図を日スケールで作成した.その結果,EUwがピークとなる3日後に,明確な気温の変動が生じることが明らかとなった.また,この変動は東アジアにおける強い風の移流と同時に生じていた.